上が広く、下が狭い
大学セミナー・ハウス(1965年/東京都八王子市)は、吉阪隆正とU研究室が設計した研修施設です。
敷地に入って最初に目に入るのが本館です。逆三角形——上へ行くほど広がり、地面に接する部分がもっとも細いという形をしています。通常の建築が下を安定させるのとは逆で、大地に突き刺さったような不安定さがそのまま形になっています。
打放しコンクリートの塊で、開口は少ない。近づくと、その重さと鋭さが同時に迫ってきます。
建物が、ひとつにまとまっていない
この施設は本館だけではありません。宿泊棟、講堂、図書館などが丘のあちこちに散らばって建っています。
ひとつの大きな建物にまとめるのではなく、地形に沿って点在させる。移動には屋外を歩く必要があり、全体像は一望できません。
吉阪はこの考え方を「不連続統一体(ディスコンティニュアス・ユニティ)」と呼びました。ばらばらに見える要素が、全体としてひとつの秩序をなす——中心から整然と広がる古典的な構成とも、機能ごとに整理する近代的な構成とも違う立場です。
コルビュジエのどこを受け継いだか
吉阪隆正がコルビュジエのアトリエにいたのは1950年から1952年、戦後最初期のフランス政府給費留学生としてでした。
この時期のアトリエでは、ロンシャンの礼拝堂やチャンディガールの計画が動いていました。つまり吉阪が持ち帰ったのは、1920年代の白い箱ではなく、打放しコンクリートの塊としての後期コルビュジエです。
大学セミナー・ハウスの荒々しいコンクリート、彫刻的な量塊、幾何学の変形——これらは同時期のコルビュジエ作品と地続きです。ただし吉阪は形を模倣せず、地形に対する態度という別の主題へ展開しました。
図面で見る、逆三角形の成立
本館の断面図を開くと、この形がどう成立しているかがわかります。
上階が張り出すほど、下部にかかる力は集中します。細い基部で上部の広がりを支えるために、構造がどう組まれているか——写真では見えない部分が、断面には描かれています。
配置図を見れば、散らばる建物群が等高線に対してどう置かれているかがわかる。「不連続統一体」という抽象的な言葉が、実際には地形の読み方だったことが、図面では具体的に確認できます。
吉阪隆正のほかの仕事
吉阪の代表作には、ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館(1956年)とアテネ・フランセ(1962年)があります。
日本館はピロティで持ち上げた展示室の床に開口を設け、下から光と視線が抜ける構成。アテネ・フランセは鮮烈な色彩で知られます。いずれも師の語彙を出発点にしながら、まったく違う方向へ展開している。
吉阪はまた、前川國男・坂倉準三とともに国立西洋美術館の実施設計を担当しました。コルビュジエの基本設計を、日本で建つ建物へ翻訳した3人のひとりです。
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