ロレックス・ラーニングセンターとは|SANAAがつくった、丘のようにうねる学び舎

ロレックス・ラーニングセンターの外観

ロレックス・ラーニングセンターは、スイスのローザンヌ工科大学(EPFL)のキャンパスに、2010年2月22日に開館した学習センターです。設計は、妹島和世と西沢立衛による建築家ユニットSANAA。

図書館、学習スペース、カフェやレストランを、ゆるやかに波打つひとつの床の上にまとめた建物として、世界中の建築関係者が訪れています。

ローザンヌ工科大学に開いた学習センター

EPFLはスイスを代表する理工系大学のひとつです。ロレックス・ラーニングセンターは、その学生と研究者のための学習と交流の拠点として計画されました。開館は2010年2月22日。

同じ年に、SANAAは建築界で最も権威ある賞のひとつとされるプリツカー賞を受賞しています。

建物の名前は、計画を支援した時計メーカーにちなみます。大学の施設でありながら、学生だけでなく一般の人も利用できる時間帯が設けられており、キャンパスの外とつながる場所として位置づけられています。

SANAAはこの建物で、図書館や学習室を個別の部屋に分けるのではなく、ひとつながりの場所として提示しました。その大胆さが、完成から十数年を経た今も参照され続ける理由です。

ひとつながりの床

海外の建築誌によれば、建物は166.5メートル×121.5メートルの範囲に広がり、延べ約2万平方メートルの空間が、ほぼ一枚の床でつながっています。

この床は平らではありません。ゆるやかに持ち上がり、下がり、丘や谷のような地形をつくっています。利用者は坂を上り下りしながら移動し、場所ごとに異なる高さと眺めのなかで、自分に合った居場所を選びます。

壁で区切る代わりに、床の起伏で場所を分ける。これがこの建物の基本的な考え方です。図書館の静かな場所、会話のできる場所、食事をする場所が、扉ではなく距離と高さの違いによって緩やかに分けられています。

大学の「中心」をつくるという課題

EPFLのキャンパスは、多くの学部の建物が並ぶ広い敷地に広がっています。そのなかで、学生がどの学部に属していても集まれるキャンパスの中心となる場所をつくることが、この建物に求められた役割でした。

図書館は、学部や専門を問わず誰もが使う施設です。そこに学習スペースや食事の場所を組み合わせ、ひとつの大きな建物にまとめることで、学生どうしの偶然の出会いが生まれやすくなります。

建物が四方から入れるように開かれ、外部の広場と内部がつながるように計画されているのも、この役割と関係しています。建物がキャンパスの交差点になる。その考え方が、波打つ床という大胆な形の背景にあります。

断面で読む:持ち上がる床と、その下をくぐる入口

ロレックス・ラーニングセンターの波打つ床の断面構成を示した解説ダイアグラム

この建物は、断面で見るとその仕組みがよくわかります。床が持ち上がった部分の下には、外部の空間が入り込み、建物の下をくぐって中央へ入ることができます。

外から見ると、平たい建物の縁がところどころで浮き上がり、その下に人が吸い込まれていく光景になります。

建物のなかには、いくつものパティオ(中庭)が穿たれています。パティオは光と外気を建物の奥まで届けると同時に、広い床のなかで方向を知る手がかりになります。

曲面の床と屋根を実現するには、新しい施工方法が必要だったと紹介されています。薄く見える屋根や、目立たない支えは、こうした技術的な挑戦の結果です。平面図だけでは、この建物の体験はほとんど伝わりません。

なかにあるもの:図書館、学習の場、カフェ

建物の中心的な機能は図書館です。海外の資料では、数十万冊規模の蔵書をもつ図書館と紹介されています。

その周りに、グループで学べる場所、ひとりで集中できる場所、サービスの窓口、カフェやレストランが配置されています。

これらが一枚の床の上に並んでいるため、学生は勉強と休憩、ひとりの時間と仲間との時間を、場所を大きく移らずに行き来できます。学習の形が多様になった時代の図書館像を、建物全体で示したといえるでしょう。

同時に、境界のない空間は、音や視線の問題とも向き合う必要があります。起伏や距離で静けさをつくる設計は、そうした課題に対するSANAAの答えでもあります。

近代建築の「自由な平面」の先にあるもの

20世紀の近代建築は、壁を構造から解放し、間取りを自由にする「自由な平面」を掲げました。

ル・コルビュジエの 近代建築の5原則 や、ミースが柱をなくして一室の大空間をつくった クラウンホール は、その代表例です。

ただし、それらの自由は平らな床の上での自由でした。ロレックス・ラーニングセンターは、床そのものを波打たせることで、平面の自由を立体の自由へと押し広げたと見ることができます。

コルビュジエがスロープで床と床をつないだ「建築的プロムナード」も、歩くことで空間を体験させる試みでした(建築的散歩を体感する)。

床全体が坂になったこの建物は、その発想のひとつの延長線上にあるともいえます。

SANAAという建築家

SANAAは、妹島和世と西沢立衛が1995年に設立した建築家ユニットです。

金沢21世紀美術館や、ニューヨークのニュー・ミュージアム、フランスのルーヴル・ランスなど、国内外で多くの公共建築を手がけています。

SANAAの建築には、薄い屋根、細い柱、透明なガラスによって、建物の存在感をできるだけ軽くしようとする傾向があります。境界をはっきり区切らず、内と外、部屋と部屋が緩やかにつながる空間も特徴です。

ロレックス・ラーニングセンターは、そうしたSANAAの考え方を、床を波打たせるという新しい方法で大規模に実現した作品です。

平らな床の上で境界を消してきたSANAAが、床の高さそのものを操作した点で、作品群の中でも特別な位置を占めています。

ひとつながりの空間がもたらす使い方

壁のない大空間は、使う人に自分で居場所を選ぶ自由を与えます。窓際の明るい場所、丘の上の見晴らしのよい場所、谷の底の落ち着いた場所。

利用者は、その日の気分や作業の内容に合わせて、座る場所を変えることができます。

こうした空間の考え方は、近年の大学図書館やオフィスで広がっている、目的に合わせて場所を選ぶ働き方・学び方とも重なります。

ロレックス・ラーニングセンターは、その流れを建築の形で先取りした例として紹介されることもあります。

一方で、坂の多い床は、車いすの利用者や荷物を運ぶ人にとっての移動のしやすさという課題もはらんでいます。起伏のある床と使いやすさの両立は、この建物を見るうえで考えておきたい視点です。

訪れるには

ロレックス・ラーニングセンターは、ローザンヌ郊外のEPFLのキャンパス内にあります。ローザンヌ中心部からは地下鉄でアクセスでき、大学の最寄り駅から歩いて向かえます。

一般の人が入れる時間帯や、図書館部分の利用条件は大学が定めています。学生の学習の場であることを意識し、撮影や会話のマナーに注意して見学しましょう。

開館時間などの最新情報は、EPFLの公式サイトで確認してください。

スイスで近代以降の名建築をめぐるなら、ピーター・ズントーの テルメ・ヴァルス や、ル・コルビュジエの レマン湖畔の小さな家 もあわせて訪ねられます。

訪問の前に、断面図や模型写真で床の起伏を確かめておくと、現地で坂を上り下りしたときに、自分がいま建物のどの高さにいるのかを実感しやすくなります。

晴れた日と曇りの日でパティオから入る光の印象が大きく変わるのも、この建物の見どころです。

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