サヴォア邸—近代建築の5原則を体現した白い箱

サヴォア邸—近代建築の5原則を体現した白い箱

近代建築のアイコン「サヴォア邸」

パリ郊外、ポワシーの緑豊かな丘の上に、まるで宇宙船のように浮かぶ白い箱。それが「サヴォア邸」です。1931年に完成したこの別荘は、ル・コルビュジエの最高傑作の一つであり、20世紀の建築に最も大きな影響を与えた建物と言っても過言ではありません。

なぜこの建物がそれほど重要なのでしょうか?それは、コルビジェが長年提唱してきた「近代建築の5原則」が、この一つの建物の中で完璧な形で実現されているからです。それは単なる住宅ではなく、新しい時代の建築のあり方を世に問うた「マニフェスト(宣言)」そのものでした。

原則1:ピロティ(空飛ぶ建築)

従来の西洋建築は、地面にどっしりと根を下ろすのが常識でした。しかしコルビジェは、建物を細い柱(ピロティ)で空中に持ち上げました。

サヴォア邸の1階部分は、細い柱が並ぶだけで、壁のほとんどない開放的な空間になっています(一部は車寄せや玄関ホール)。これにより、建物は湿気から守られ、庭の緑は建物の下を通り抜けて連続します。まるで重力から解放されたかのような浮遊感。ピロティは、建築を地面から切り離し、自由なものにしました。

原則2:屋上庭園(空中のサンクチュアリ)

建物を建てることで奪ってしまった地上の緑を、屋上に返そう。それがコルビジェの考えでした。サヴォア邸の屋上には、空に開かれた素晴らしい庭園があります。

ここは単なる植物置き場ではありません。サンルームや屋外リビングとして機能し、プライバシーを守りながら太陽と風を楽しむことができる「空中の聖域」です。平らな屋根(陸屋根)は雨漏りのリスクなどから当時は敬遠されがちでしたが、コルビジェは防水技術の進歩を信じ、屋上を有効な生活空間へと変えました。

原則3:自由な平面(壁からの解放)

かつての石積みやレンガ造りの家では、壁が屋根の重さを支えていたため、部屋の形や大きさは構造壁によって決められてしまいました。

しかし、鉄筋コンクリートと「ドミノ・システム(柱と床だけの構造)」を採用したサヴォア邸では、壁は構造から解放されました。柱が重さを支えているため、壁は単なる仕切りとなり、自由に配置することができます。これにより、広々としたリビングや、緩やかにカーブする壁など、住む人の動線に合わせた流動的で自由な間取りが可能になりました。

原則4:水平連続窓(パノラマの絶景)

サヴォア邸の外観で最も印象的なのが、建物をぐるりと一周する細長い「水平連続窓」です。これもまた、壁が重さを支える必要がなくなったからこそ実現できたデザインです。

伝統的な縦長の窓とは異なり、水平に広がる窓は、室内に均一で明るい光をもたらします。そして何より、窓からの眺めはまるでパノラマ写真のように広がり、周囲の自然を絵画のように切り取ります。「窓は風景を切り取る額縁である」。コルビジェのこの言葉通り、水平連続窓は居住体験をドラマチックに変えました。

原則5:自由なファサード(デザインの自由)

最後の原則は「自由なファサード(立面)」です。壁が構造体ではないため、窓の位置や大きさ、壁のデザインを自由に決めることができます。

サヴォア邸のファサードは、装飾を一切排した純白の平滑な面で構成されています。この幾何学的で抽象的な美しさは、当時の人々には衝撃的でした。それは過去の様式美(デコレーション)との決別であり、機能と構造から導き出される新しい時代の美しさの提示だったのです。

「輝く時間」を生きるための機械

コルビジェはサヴォア邸での生活を「Les Heures Claires(輝く時間)」と呼びました。明るい陽光、新鮮な空気、緑の風景。それらに包まれて過ごす衛生的で精神的な生活こそが、彼が目指したものでした。

車でピロティの間を抜け、玄関に入り、スロープをゆっくりと登っていく。その移動に伴って景色が次々と展開(シークエンス)していく「建築的プロムナード」は、住む人に感動を与え続けます。サヴォア邸は、単なる「住むための機械」ではなく、「詩的な感動を生み出す機械」でもあったのです。

廃墟からの復活と世界遺産

実はこの傑作も、一時は廃墟となり、取り壊しの危機に瀕していました。第二次世界大戦中の占領や、その後の放置により荒れ果てていましたが、アンドレ・マルロー文化相らの尽力により保存が決まり、修復されました。

2016年、サヴォア邸はコルビジェの他の16作品とともにユネスコ世界文化遺産に登録されました。完成から約100年が経った今も、その白く輝く姿は、私たちに「建築とは何か」「豊かさとは何か」を問いかけ続けています。フランスに行かれる際は、ぜひこの近代建築の聖地を訪れてみてください。