中庭に面した外壁(2026年6月)
写真:Mikkoau/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons
コエタロは、フィンランドの建築家アルヴァ・アアルトと妻エリッサが、湖に浮かぶムーラッツァロ島に建てた夏の家です。フィンランド語で「実験住宅」を意味し、「ムーラッツァロの実験住宅」とも呼ばれます。
中庭の壁を約50のパネルに分け、さまざまなレンガやタイルを試したことで知られ、2026年には世界遺産「Aalto Works」の構成資産になりました。
| 名称 | ムーラッツァロの実験住宅(コエタロ) |
|---|---|
| 設計 | アルヴァ・アアルト、エリッサ・アアルト |
| 年代 | 母屋1952年、客用の棟1953年(設計は1952〜54年) |
| 所在地 | フィンランド中部、ペイヤンネ湖のムーラッツァロ島の西岸(ユヴァスキュラ市) |
| 用途 | アアルト夫妻の夏の家、建築の実験の場 |
| 敷地 | 53,650㎡ |
| 世界遺産 | 2026年、「Aalto Works」の構成資産として登録 |
| 見学 | 夏のみ。ガイドツアーで見学(事前の予約が必要) |
年代・敷地・実験の内容は、アルヴァ・アアルト財団の解説によります。
湖の島に、夫婦で建てた夏の家
コエタロは、フィンランド中部の大きな湖、ペイヤンネ湖に浮かぶムーラッツァロ島の西岸に建っています。
アアルトは1952年に、建築家のエリッサと再婚しました。この夏の家は、二人が一緒に設計したものです。
母屋は1952年、客用の棟は1953年に建てられました。L字の母屋と壁が中庭を囲み、中庭は南と西に向かって開いています。
夏のあいだ、夫妻はアアルトが設計したモーターボート「ネモ・プロフェタ・イン・パトリア」で島に通いました。このボートは、いまはアルヴァ・アアルト財団が所蔵しています。
中庭の壁で試した、約50種類のレンガとタイル
建物の外側の壁は白く塗られていますが、中庭に入ると、壁は赤いレンガに変わります。
その中庭の壁は、約50のパネルに分けられ、それぞれ違うレンガや陶器のタイルで仕上げられています。
レンガの大きさ、目地の種類、陶器の材料、表面の仕上げ。それぞれの違いが壁にどう表れるかを、実物で確かめるための壁でした。
パネルの中には、レンガを斜めに積んだもの、凹凸をつけたもの、青いタイルを張ったものもあります。中庭全体が、材料の見本帳のようになっています。
中庭の壁の、積み方を変えたレンガのパネル(2026年6月)
写真:Mikkoau/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons
4つの実験と、その結果
アルヴァ・アアルト財団の解説によれば、アアルトがこの家で試そうとした実験は4つありました。
基礎を使わない建て方、自由な形のレンガ造、自由な位置に立てる柱、そして太陽熱による暖房です。
このうち、自由な形のレンガ造と太陽熱の暖房は、実際には行われませんでした。
基礎を使わない建て方は客用の棟の床下で試され、自由な位置の柱は薪小屋で、地形にとって都合のよい場所に柱を立てる形で試されました。
計画のすべてが実現したわけではありません。けれども、夏の家を実験の場として使うという考え方そのものが、この建物の価値になっています。
中庭の中心にある火
中庭の真ん中には、屋外の炉が置かれています。財団は、これを中庭の「心臓」にあたる場所と説明しています。
白夜の続くフィンランドの夏、壁に囲まれた中庭で火を囲む。中庭は、部屋の外にあるもう一つの居間でした。
壁で囲みながら、南と西には開いて湖と森の方へ視線を逃がす。守られた場所と、外の自然との境目が、中庭の形で設計されています。
湖畔のスモークサウナ
湖岸の砂の入り江には、スモークサウナがあります。石の上に、敷地で切った木の丸太を組んで建てられ、着替えの部屋も付いています。
サウナは、アルヴァのスケッチをもとに、エリッサが実施の図面を描きました。夫婦の共同設計がよくわかる建物です。
フィンランドの夏の暮らしに欠かせないサウナを、母屋とは別に、湖の近くに置く。マイレア邸の庭のサウナと同じく、土地の暮らしを近代の住宅に組み込んでいます。
アアルト自身の言葉
アアルトは、完成した年に建築雑誌『Arkkitehti』(1953年9〜10号)で、この家を次のように説明しています。
「守られた建築家のアトリエと、実験の場を組み合わせたもの。」
出典:アルヴァ・アアルト、『Arkkitehti』1953年9〜10号(アルヴァ・アアルト財団の紹介による、編集部訳)
「守られたアトリエ」は、大きな事務所の仕事から離れ、落ち着いて考えるための場所と読めます。もう一方の実験の場は、新しい材料や構法を実物で試すための場所でした。
アアルトは、自然が形や構造に刺激を与える場所として、この家を考えていました。財団は、それを遊び心のある実験室と表現しています。
レンガのパネル、基礎のない床、自由な位置の柱。どれも、本格的な建物で使う前に、自分の家で試してみるという姿勢から生まれています。
建築家が自分の家を実験に使う例は少なくありません。けれども、試した結果をそのまま壁に残し、実験の記録そのものを住まいの風景にした点で、コエタロは特別な存在です。
同じ時代のセイナッツァロと、コルビュジエ
島の近くのセイナッツァロ村には、同じ頃にアアルトが設計した村の役場(1952年)があります。こちらも、赤いレンガの建物です。
1950年代のアアルトは、白い壁から赤いレンガへと関心を移していきました。コエタロの中庭は、そのための試験場でもあったのです。
同じ1950年代、パリ近郊ではル・コルビュジエが、レンガの壁とヴォールトの屋根のジャウル邸に取り組んでいました。
白い箱の近代建築から、土地の材料と手ざわりへ。二人の巨匠が、同じ時期に似た方向へ進んでいたことは興味深い点です。コルビュジエとアアルトの関係は、コルビジェとアアルトの記事で紹介しています。
コエタロの図面で見るところ
「コエタロ 図面」と調べる人に向けて、図面の種類ごとに見るところをまとめました。
| 配置図 | 島の西岸の岩場に置かれたL字の母屋と壁、南と西に開く中庭の向き、湖畔のサウナと薪小屋の位置。 |
|---|---|
| 平面図 | L字の母屋と客用の棟が中庭を囲む関係と、中庭の中央の炉。 |
| 立面図(中庭側) | 約50のパネルに分けられたレンガとタイルの壁。外側の白い壁との違い。 |
| 断面図 | 基礎を省いた客用の棟の床下と、岩の地面との関係。 |
アアルトの図面や資料は、アルヴァ・アアルト財団が保管しています。
図面を読むときは、中庭の壁の立面図と配置図を並べてください。どのパネルが、どの方角の光を受けているかがわかります。
訪れるには
コエタロは夏のあいだだけ公開され、見学はガイドツアーで行われます。ツアーは、ユヴァスキュラのアアルトの美術館「Aalto2」が運営しています。
チケットは事前の購入が必要で、1回の参加者は15人までです。ガイドの説明は約45分で、そのあとは敷地を自由に歩けます。
2026年の公開は6月上旬から9月上旬まででした。毎年の日程は、Aalto2の案内で確かめてください。
建物までは森の小道を歩くため、段差なく歩ける道ではありません。歩きやすい靴で出かけてください。
同じユヴァスキュラの周辺には、セイナッツァロの村役場など、アアルトの建物が集まっています。アアルト自邸とあわせて、世界遺産「Aalto Works」をめぐる旅の目的地になります。

