広島基町高層アパート|ユニテの思想を日本で実現した団地

広島基町高層アパートの外観

広島市の中心部、基町(もとまち)に建つ高層アパート群は、1970年代に完成した大規模な公営住宅です。設計の中心は大高正人。原爆の後にバラックが密集した一角を、屋上庭園と人工地盤を備えた立体都市に建て替えるという、日本の戦後復興でも例のない事業でした。コルビュジエのユニテ・ダビタシオンの思想が、日本でもっとも大きな規模で実を結んだ場所です。

原爆スラムと呼ばれた場所

基町は広島城に隣接する市の中心部です。1945年の原爆で市街が失われた後、この一帯の河岸には住まいを失った人々のバラックが密集し、「原爆スラム」と呼ばれる状態が長く続きました。

行政は1960年代末から、この地区の全面的な建て替えに乗り出します。求められたのは、数千戸の住まいを、狭い敷地に、緑を残しながら供給すること。高層化はその答えでした。

折れ曲がる高層の壁

折れ曲がる住棟の配置と囲まれた広場を示した解説ダイアグラム

基町の住棟は、まっすぐな板状ではありません。「く」の字に折れながら連結し、蛇行する壁のように敷地を囲みます。最高部は20階に及び、当時の公営住宅としては突出した高さでした。

折れ曲がる配置には理由があります。単調な平行配置を避け、住棟のあいだに囲われた広場をつくり、どの住戸にも日照と眺望を配る。壁のような建築で、壁に囲まれた谷間をつくらないための操作でした。

屋上庭園と人工地盤

住棟の屋上は緑化され、階段状に下がる屋上庭園が計画されました。足元には人工地盤が敷かれ、駐車場や設備を地盤の下に収めて、地上のレベルを歩行者と緑に開放する構成がとられています。

ピロティ、屋上庭園、歩車分離。これらは近代建築の五原則コルビュジエの都市論の語彙そのものです。理念の直輸入ではなく、日本の公営住宅の制度と予算のなかで実装した点に、この団地の価値があります。

設計者は前川事務所で育った

大高正人は、コルビュジエの直弟子・前川國男の事務所で長く働いた後に独立した建築家です。つまり基町は、コルビュジエ→前川→大高という師弟の系譜の三代目にあたる仕事です。

大高はメタボリズム運動にも参加し、人工地盤の上に住まいを重ねる構想を各地で追求しました。香川県の坂出人工土地はその代表例です。基町は、その構想がもっとも大きな規模で実現した現場でした。前川の系譜はコルビュジエの日本人の弟子たちをご覧ください。

ユニテとの共通点と違い

マルセイユのユニテ・ダビタシオンは、337戸の住まいと共用施設を一棟に積んだ「垂直の都市」でした。基町も、住棟に商店や学校などの生活機能を組み込み、団地全体でひとつの街として計画されています。

違いは、単体か群かです。ユニテが一棟の彫刻的な完結を目指したのに対し、基町は複数の住棟が連結して都市の地形をつくる方向へ進みました。単体の理念を、群の計画に翻訳した。ここが日本版と呼ばれる所以です。

いまも人が住み続ける

基町高層アパートは現在も現役の公営住宅で、数千人が暮らしています。竣工から半世紀を経て、住民の高齢化や空き住戸といった課題も抱えていますが、解体されずに使われ続けていること自体が、この計画の底力を示しています。

近年は、戦後住宅史の重要作として再評価が進み、見学や研究の対象にもなっています。広島を訪れる機会があれば、平和記念公園とあわせて、復興のもうひとつの現場であるこの団地の姿も見てほしいと思います。丹下健三の広島での仕事ともつながる場所です。

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