地面を、もう一枚つくる
坂出人工土地(1968年〜/香川県坂出市)は、大高正人が設計した再開発事業です。
敷地は既存の市街地でした。通常の再開発は建物を取り壊して更地にしますが、ここでは違う方法が採られました。地上部分は駐車場や店舗として残し、その上に鉄筋コンクリートの巨大な人工地盤を架ける。そして人工地盤の上に、住宅と広場を配置しました。
つまり地面を2層にしたということです。下は車と商業、上は人と住居。
なぜ地面を分けたのか
この発想の背景には、20世紀の都市が抱えた問題があります。自動車が地面を占領してしまったことです。
コルビュジエの都市論は、まさにこの問題への解答でした。ピロティで建物を持ち上げて地面を空ける。「300万人の現代都市」(1922年)では、交通と歩行者を高さで分ける構想が描かれています。
大高の人工地盤は、この考え方を既存の市街地に後から適用したものです。更地からつくる理想都市ではなく、すでに人が住んでいる場所でどう実現するか——ここが実務的に難しい部分でした。
大高正人と前川國男
大高正人は、前川國男の事務所で10年以上を過ごしてから独立しています。前川はコルビュジエのアトリエで学んだ日本人第一号です。
つまりコルビュジエ → 前川 → 大高という直接の系譜があります。大高は前川事務所時代に晴海高層アパートなどの集合住宅を担当し、独立後は広島基町高層アパートなど大規模な住宅計画に取り組みました。
また、メタボリズム運動の創設メンバーの一人でもあります。「人工土地」という語自体、この運動のなかで提唱された概念でした。
断面図で見る二層構造
この計画は、平面図だけでは何が新しいのかわかりません。断面図を見たときに初めて、地面が2層になっていることが理解できます。
下層の店舗・駐車場、その上の人工地盤スラブ、さらに上の住棟と広場。どの高さに何が置かれ、上下がどこでつながっているか——すべて断面に描かれています。
コルビュジエのピロティも同じです。サヴォア邸の断面を開くと、持ち上げられた1階に何があり、上階とどうつながるかが見えてきます。「地面を操作する」という主題は、断面でしか語れません。
その後
坂出人工土地は段階的に建設が進められ、現在も使われています。人工地盤という実験が、実際の市街地で数十年にわたって運用された希少な事例です。
一方で、維持管理の負担や上層と下層の関係など、この形式ならではの課題も指摘されてきました。理念が実際の都市でどう機能したかを検証できる、貴重な対象といえます。
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