ガラスの板に包まれたブレゲンツ美術館の外観(再現イメージ)
ブレゲンツ美術館(クンストハウス・ブレゲンツ、略称KUB)は、オーストリア西端の町ブレゲンツに、1997年に開館した美術館です。設計したのは、スイスの建築家ピーター・ズントーです。
エッチングを施したガラスの板で建物全体を包み、昼の光を展示室まで届けることを目指した建物で、1998年にはミース・ファン・デル・ローエ賞を受けました。
| 名称 | クンストハウス・ブレゲンツ(KUB) |
|---|---|
| 設計 | ピーター・ズントー |
| 建設・開館 | 1994〜1997年、1997年開館 |
| 所在地 | オーストリア・フォアアールベルク州ブレゲンツ(ボーデン湖畔の町の中心部) |
| 外壁 | エッチングを施したガラス板712枚(1枚1.72m×2.93m) |
| 展示室 | 1階(天井高6.20m、約500㎡)と、上の3層(各450㎡) |
| 構造 | 厚さ約72cmの打放しコンクリートの壁3枚が、全階を貫いて支える |
| 受賞 | 1998年 ミース・ファン・デル・ローエ賞 |
数字は、クンストハウス・ブレゲンツの公式サイトの建築の解説によります。
湖の光の中に建つ美術館
ブレゲンツは、オーストリア、ドイツ、スイスの3か国が接するボーデン湖の東岸にある町です。美術館は、湖岸に近い町の中心部に建っています。
建物は、フォアアールベルク州の依頼でつくられました。1994年に工事が始まり、1997年に開館しています。
開館の展覧会は、光を素材に作品をつくる美術家ジェームズ・タレルの展示だったとされます。
ズントーは、この美術館がボーデン湖の光の中にあると述べています。湖の上の明るく変わりやすい光を、そのまま展示室に取り込むことが、設計の出発点でした。
ガラスの外壁は、建物から離れて立つ
建物の外側は、エッチングを施した同じ大きさのガラス板712枚で覆われています。1枚の大きさは1.72m×2.93mです。
このガラスの外壁は、内側のコンクリートの建物とは構造の上で切り離され、鋼のトラスの枠に支えられて自立しています。
外側のガラスと、内側の断熱のためのガラスの壁のあいだには、90cmのすき間があります。そこには、点検用の4台の昇降かごと、夜の照明のためのライトが納められています。
少しずつ重なるように取り付けられたガラス板は、鱗やこけら板にたとえられます。曇りガラスのため、外から中ははっきり見えず、建物全体がぼんやり光る箱のように見えます。
3回屈折して届く、昼の光
この美術館は、昼の光で作品を見せることを目指して設計されました。
光はまず外側のガラスを通り、次に帯状の窓から、展示室の上にある高さ約2mのすき間に入ります。そこから、エッチングガラスの天井を通って、上の3層の展示室に降りてきます。
公式サイトの解説によれば、光は外壁のガラス、二重のガラス、天井のガラスで3回屈折します。そのため、展示室の光はやわらかく、方向のはっきりしないものになります。
天井のガラス板は、コンクリートの天井から何百本もの細い鋼の棒でつり下げられています。
必要なときには、すき間の中に各階235個ずつ下げられた照明が、昼の光を補います。光の層が、展示室の上にもう一つの部屋のように重なっているのです。
柱のない展示室と、3枚のコンクリートの壁
建物を支えているのは、厚さ約72cmの打放しコンクリートの壁3枚です。この壁が全階を貫き、重さを受け止めます。
3枚の壁は、階段やエレベーター、設備も内側に隠しています。そのおかげで、展示室には柱が1本もありません。
1階は天井高6.20m、約500㎡で、受付やクロークと展示の場所があります。上の3層はどれも450㎡の展示室で、天井高は1・2層目が4.25m、3層目が4.95mです。
地下には講義室などがあります。展示室を、光と壁と床だけの単純な箱にすることで、どんな作品にも応えられるようにしています。
黒い事務棟と、町の広場
美術館の隣、町の側には、黒く着色したコンクリートの事務棟があります。上の2層が事務室で、1階はカフェ・バーになっています。
カフェは2013年に、ズントーの設計で広げられました。
美術館と事務棟は直角に置かれ、そのあいだに町に開いた広場が生まれています。
光る美術館と、黒い事務棟。二つの対照的な箱が、湖と町のあいだに場所をつくっています。
ズントーの言葉
ズントーは、この美術館の役割について、次のように述べています。
「芸術作品のための場所であり、その作品に静かに出会いたい人のための場所。」
出典:ピーター・ズントー(クンストハウス・ブレゲンツ公式サイトの建築の解説による、編集部訳)
この言葉は、建物の設計とよく対応しています。柱をなくし、設備を壁の中に隠し、光を天井から均等に降らせる。どれも、作品と見る人のあいだから、余計なものを取り除くための工夫です。
ズントーの関心は、建物を目立たせることではなく、そこで起きる体験の質にあります。
温泉の湯と身体の関係を中心に設計したテルメ・ヴァルスと、作品と人の出会いを中心に設計したブレゲンツ美術館は、同じ姿勢から生まれています。
建物は控えめでありながら、光と素材の質で、訪れた人の記憶に強く残る。静けさを設計するという点に、ズントーの建築の特徴があります。
ロンシャン、そして国立西洋美術館
厚い壁に小さな開口をあけ、色のついた光を落とすル・コルビュジエのロンシャンの礼拝堂は、光を「点」として扱う建築です。
ブレゲンツ美術館は、光を天井全体から「面」として降らせます。同じ自然の光でも、扱い方は正反対です。
美術館に自然の光をどう入れるかは、コルビュジエも国立西洋美術館で取り組んだ課題でした。中央の19世紀ホールには、三角形の天窓から光が落ちてきます(国立西洋美術館の見学ガイド)。
二つの美術館を比べると、昼の光を展示にどう生かすかという同じ問いに、時代と考え方の違う答えが出されていることがわかります。
ブレゲンツ美術館の図面で見るところ
「ブレゲンツ美術館 断面図」と調べる人が多いのは、この建物の要点が断面にあるからです。図面の種類ごとに見るところをまとめました。
| 断面図 | 展示室の上の高さ約2mのすき間(光の層)と、つり下げられたガラスの天井。各階の天井高(6.20m・4.25m・4.25m・4.95m)。 |
|---|---|
| 平面図 | 3枚のコンクリートの壁が、階段・エレベーター・設備をまとめている配置と、柱のない展示室。 |
| 立面図・外壁の詳細図 | 同じ大きさのガラス板が並ぶ外壁と、内側の断熱の壁とのあいだの90cmのすき間。 |
| 配置図 | 湖側の美術館と、町側の黒い事務棟が直角に置かれ、広場をつくる関係。 |
断面図を見るときは、展示室の天井の上にもう一つの層があることに注目してください。そこが、昼の光を整える場所です。
テルメ・ヴァルスの断面と並べると、ズントーが光をどの高さから入れるかを、建物ごとに変えていることがわかります。
訪れるには
美術館は、ブレゲンツの町の中心部、湖岸の近くにあります。展覧会は入れ替わるため、開館時間や展示の内容は公式サイトで確かめてください。
同じ建物でも、晴れた日と曇りの日では、展示室の光がまったく違って見えます。天気を変えて二度訪れる人もいるほどです。
夏には、湖上の舞台で知られるブレゲンツ音楽祭が開かれ、町はにぎわいます。
ズントーの建築をめぐる旅なら、スイスのテルメ・ヴァルスや、ドイツのブラザー・クラウス野外礼拝堂とあわせて訪ねるのもよいでしょう。

