車の部品が、建築の装飾になっている
クライスラービル(1930年/アメリカ・ニューヨーク)は、ウィリアム・ヴァン・アレンが設計した超高層ビルです。自動車会社クライスラーの本社として建てられました。
特徴は頂部です。ステンレス鋼の三角形の窓が扇状に重なり、放射状の王冠のような形をつくっています。さらに下層には、自動車のラジエーターキャップやホイールキャップを模した装飾が取り付けられています。
企業の製品そのものを、建築の装飾に変換したわけです。
コルビュジエも自動車を讃えていた
興味深いのは、コルビュジエもまた自動車を讃えていたことです。
『建築をめざして』(1923年)には、自動車とパルテノン神殿を並べた有名な図版があります。自動車は用途と技術から形が決まり、無駄がない。だから美しい。建築もそうあるべきだという主張でした。
ただし方向がまったく違います。コルビュジエが求めたのは自動車のように機能から形を導く方法。クライスラービルがやったのは自動車の部品を装飾として貼りつけることです。
同じ自動車を出発点にして、正反対の答えが出ました。
装飾をめぐる分岐
アドルフ・ロースが「装飾と犯罪」を書き、コルビュジエがそれをフランス語で広めた。ヨーロッパの近代建築は、装飾を捨てる方向へ進みました。
一方、同時期のアメリカではアールデコが全盛でした。幾何学的な装飾を積極的に使い、都市に華やかさを与える。装飾は排除すべきものではなく、更新すべきものだった。
1935年にコルビュジエがニューヨークを訪れたとき、彼が目にしたのはこの都市でした。『大聖堂が白かったとき』での摩天楼批判は、この文脈のなかで読む必要があります。
競争の産物でもある
クライスラービルの尖塔には、もう一つの事情があります。当時、世界一の高さを競う争いがあったことです。
尖塔部分はビル内部で密かに組み立てられ、完成間際に一気に立ち上げられたと伝えられます。これによって競合を抜き、一時的に世界一となりました。ただしその座は翌年、エンパイア・ステート・ビルに譲ります。
高さが商業的な広告になっていた時代の建築です。コルビュジエが「小さすぎる」と評したのは、この動機に対する批判でもありました。
いまも現役
クライスラービルは、竣工から90年以上を経ていまもオフィスビルとして使われています。1976年にアメリカ合衆国国定歴史建造物に指定されました。
装飾を否定した近代建築の系譜と、装飾を更新したアールデコの系譜。20世紀の都市は、この両方でできています。
コルビュジエの側の思想を図面で確かめたい方は、下記の手描き構想図をご覧ください。
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