外は白い箱、中は迷路
ミュラー邸(1930年/チェコ・プラハ)は、アドルフ・ロースが実業家フランティシェク・ミュラーのために設計した住宅です。
外観は、ほぼ無装飾の白い立方体です。窓は必要な位置に必要な大きさで開けられ、規則的に並んでいません。
ところが内部に入ると、印象が一変します。大理石やマホガニーなど高価な素材が使われ、部屋ごとに床の高さが違う。数段の階段を上がると次の部屋、また数段下がると別の部屋、という具合に、空間が立体的につながっています。
ラウムプランという方法
ロースはこの手法を「ラウムプラン(空間の設計)」と呼びました。
通常の住宅は、各階の床を同じ高さに揃えて、平面で部屋を割ります。ロースは違いました。居間には高い天井が要る。書斎は狭くていい。ならば必要な高さだけを与えて、立体的に積む。
結果として、この家には「何階」という区切りが明確に存在しません。断面図を見ると、床が階段状にずれながら積層しているのがわかります。
「装飾と犯罪」を広めたのはコルビュジエだった
ロースは1908年頃、「装飾と犯罪」という講演・論文を発表しています。装飾に費やされる労働は無駄であり、文化の進歩は装飾からの離脱であるという主張でした。
この文章がヨーロッパ全体に知られるようになったのは、コルビュジエが1920年に創刊した雑誌『レスプリ・ヌーヴォー』にフランス語訳を掲載したからです。
つまりコルビュジエは、ロースの思想の紹介者でもありました。近代建築が装飾を捨てる流れの、重要な結節点がここにあります。
ただし、二人は違う方向へ行った
面白いのは、ロース自身は室内に高価な素材を使い続けたことです。装飾は否定しても、素材の贅沢は否定していません。
コルビュジエは逆に、外も内も白く塗りました。「装飾を捨てる」という同じ出発点から、片方は素材の質へ、もう片方は形態の純粋さへ向かったことになります。
また、空間の作り方も対照的です。ロースのラウムプランは断面で複雑化する手法。コルビュジエの「自由な平面」は平面で自由になる手法。どちらの方向に自由を求めたかが違います。
断面図でしか理解できない
ミュラー邸は、平面図だけを見ても何が起きているかわかりません。各階の平面図を並べても、部屋の高さがバラバラであることは現れないからです。
断面図を開いて初めて、床が階段状にずれていることが読めます。どの部屋がどの高さにあり、どこで数段上がるのか。
コルビュジエの側の断面を確かめたい方は、下記の手描き構想図をご覧ください。スロープが建物を斜めに貫く、別の解答が描かれています。
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