引用でできた建築
つくばセンタービル(1983年/茨城県つくば市)は、磯崎新が設計した複合施設です。ホテル、コンサートホール、商業施設などが一体になっています。
この建築の特徴は、いたるところが過去の建築からの引用でできていることです。ミケランジェロのカンピドリオ広場、ルドゥーの門、ジュリオ・ロマーノの粗石積み。新しい形を発明するのではなく、既にあるものを引いてきて組み合わせる——近代建築が禁じ手としてきた手法を、あえて中心に据えています。
中心を、へこませた
最も知られているのが広場です。
ローマのカンピドリオ広場は、中央にマルクス・アウレリウス帝の騎馬像が立ち、周囲の舗装が楕円の渦を描いて広がります。つくばセンタービルの広場は、その楕円のパターンをほぼそのまま引用しながら、中央を沈ませ、像を置いていません。
本来なら権威が立つ場所が、空洞になっている。ここには中心を持たない都市という主題が込められています。つくば研究学園都市という、国家が計画的につくった新都市に建てられたことを考えると、この空白は皮肉としても読めます。
コルビュジエの都市論との距離
コルビュジエの都市計画は、明確な中心を持っていました。「300万人の現代都市」(1922年)では中央に交通の結節点と高層ビル群が置かれ、そこから機能ごとに整理された地区が広がります。チャンディガールでも、キャピトル・コンプレックスという中心が計画されました。
磯崎はその中心という前提そのものを疑いました。師にあたる丹下健三はコルビュジエの都市論を継承した世代です。磯崎は丹下研究室の出身でありながら、その系譜を批評する立場に回りました。
継承ではなく、疑うことで受け継ぐ——磯崎の位置はそこにあります。
平面図で見ると引用がわかる
この建築は、写真だけでは何が引用なのか判別できません。
広場の平面図を、カンピドリオ広場の平面図と並べると、楕円のパターンがどこまで同じで、どこが変えられているかが一目でわかります。中央が沈んでいることも、断面図でなければ伝わりません。
引用という手法は、図面のレベルで初めて検証できる——この建築は、そのことを示す教材でもあります。
磯崎新のその後
磯崎新は1931年生まれ。丹下健三のもとで学び、独立後は国内外で活動しました。ロサンゼルス現代美術館、バルセロナのサンジョルディ・スポーツホールなどを手がけ、2019年にプリツカー賞を受賞しています。
近代建築の合理主義に対して、常に批評的な距離を保ち続けた建築家でした。その出発点にコルビュジエ=丹下という系譜があったことは、つくばセンタービルを読むうえで欠かせません。
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