同じ断面が、何度も繰り返される
キンベル美術館(1972年/アメリカ・テキサス州フォートワース)は、ルイス・カーンが設計した美術館です。
構成は単純です。細長いかまぼこ型の屋根(ヴォールト)が、何本も平行に並んでいる。一本ごとに独立した構造で、その繰り返しが建物全体を形づくっています。
この曲線は半円ではなくサイクロイドと呼ばれる曲線です。円を転がしたときに円周上の一点が描く軌跡で、半円より扁平になります。天井が低く抑えられ、展示室が落ち着いた高さに収まります。
光は、直接は入ってこない
この美術館の核心は、ヴォールトの頂部に一本のスリットが通っていることです。
ただし、そこから光がそのまま落ちてくるわけではありません。スリットの直下には穴のあいた金属の反射板が吊られており、入ってきた光はまずこの板に当たり、ヴォールトの内側の曲面に跳ね返ってから展示室に降りてきます。
直射日光は絵画を傷めます。カーンは光を遮るのではなく、反射させて拡散させるという方法で、自然光のまま展示室に導きました。
ロンシャンとの共通点
「光をそのまま入れず、加工して届ける」という発想は、コルビュジエのロンシャンの礼拝堂(1955年)と共通します。
ロンシャンでは、南側の分厚い壁の開口が外側より内側で大きくなっており、光は壁の厚みの中で広がってから室内に届きます。屋根も壁からわずかに浮いていて、その隙間から水平の光の帯が入る。
断面図を並べると、この二つが同じ問題に対する別解であることが見えてきます。片方は壁の厚みで、もう片方は反射板で。どちらも「光そのものを設計対象にした」建築です。
カーンがコルビュジエから強い影響を受けたことは広く指摘されており、ラ・トゥーレット修道院との比較もしばしば論じられます。
断面図がすべてを説明する
キンベル美術館ほど、断面図を見なければ理解できない建築も少ないでしょう。
平面図を開いても、ヴォールトが並んでいることしかわかりません。スリットの位置、反射板の角度、光が跳ね返る経路——これらはすべて断面に描かれています。
写真で「美しい光」として写っているものが、実際には幾何学的に計算された反射の結果であることは、断面図でしか確認できません。
ルイス・カーンという建築家
ルイス・カーン(1901–1974)は、エストニア生まれのアメリカの建築家です。50代半ばを過ぎてから代表作を次々と手がけました。
キンベル美術館のほか、ソーク研究所(1965年)、バングラデシュ国会議事堂(1983年)などがあります。いずれも幾何学と光を主題とし、素材の質感をそのまま見せる点で、後期コルビュジエと共通する態度を持っています。
コルビュジエの側の光の設計を図面で確かめたい方は、下記のロンシャンの手描き構想図をご覧ください。
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