装飾を足すのではなく、壁を切り取る
光の教会(1989年/大阪府茨木市・茨木春日丘教会)は、安藤忠雄が設計した礼拝堂です。
約113平方メートルの、打放しコンクリートの箱。正面の壁には十字形のスリットが切り抜かれているだけで、他に装飾はありません。ステンドグラスも彫像もない。開口から差し込む光が、そのまま十字架として床と会衆席に落ちます。物としての十字架を置くのではなく、壁の不在によって十字架をつくる——この反転がこの建築の中心です。
床が下がっていく
内部の床は、入口から祭壇に向かって階段状に低く下がっています。通常の教会が祭壇を高く据えるのとは逆です。
座る位置が下がるほど、正面の光の十字は相対的に高く、大きく見えます。会衆は見下ろすのではなく、常に見上げることになる。断面図を見ると、この床の勾配と視線の関係が設計されたものであることがはっきりします。平面図だけでは、この効果は読み取れません。
ロンシャンの礼拝堂との接続
コルビュジエのロンシャンの礼拝堂(1955年)でも、光は建築の主題でした。
南側の分厚い壁は、外側の開口より内側の開口が大きく、光は壁の厚みの中で広がってから室内に届きます。直射ではなく、滲んだ明るさ。屋根も壁からわずかに浮いていて、その隙間から水平の光の帯が入ります。光を「入れる」のではなく「加工して届ける」という発想です。
安藤の十字のスリットは、形も手法も違います。しかし光そのものを建築の主役に据えるという点で、明確に地続きです。安藤は独学でコルビュジエを学び、1965年にロンシャンを実際に訪れています。
コンクリートの精度
この建築を成立させているのは、コンクリートの打設精度です。
型枠の継ぎ目とセパレーター(型枠を固定する金具)の穴が、正確な格子状に並ぶよう計画されています。壁面に他の要素がないため、この目地の配置がそのまま意匠になる。コルビュジエが「ベトン・ブリュット(打放し)」で木の型枠の荒々しい木目を残したのに対し、安藤は同じ材料で正反対の、滑らかで精緻な面を追求しました。
同じ打放しコンクリートが、国と時代を隔てて逆方向に展開した例です。
図面で見るとわかること
写真で見る光の教会は、光の劇的さばかりが伝わります。
しかし平面図を開けば、この礼拝堂が単純な直方体に壁が1枚斜めに差し込まれただけの構成だとわかります。その斜めの壁が入口の動線をつくり、外の光を遮っている。劇的に見える空間が、きわめて単純な操作で成立していることは、図面でしか確認できません。
コルビュジエの側の解答を図面で確かめたい方は、下記のロンシャンの手描き構想図をご覧ください。
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