池のなかに、十字架が立っている
水の教会(1988年/北海道・トマム)は、安藤忠雄が設計したチャペルです。
建物の前には人工の池が広がり、その水面に鉄の十字架が一本だけ立っています。礼拝堂の正面はガラスの壁で、座ると池と十字架、その先の白樺林が一枚の風景として見えます。
このガラス壁は横にスライドして、完全に開きます。開くと、礼拝堂と外部のあいだに何もなくなる。風の音も水の音も、そのまま入ってきます。
四つの十字架をくぐって降りる
訪問者は、いきなり礼拝堂に入るわけではありません。
まず丘の上のガラスの箱に導かれます。そこには四本の十字架が立っている。次に暗い階段を降り、方向を変えられ、それから礼拝堂に出る。視界が閉じられたあとに、突然、水と十字架が開ける。
歩きながら空間が展開していくこの仕掛けは、コルビュジエが「建築的プロムナード」と呼んだものと同じ構造です。サヴォア邸のスロープも、ロンシャンへ登る参道も、目的地に至るまでの道のりが設計されていました。
ロンシャンとの違い
コルビュジエのロンシャンの礼拝堂(1955年)も、光を主題にした宗教建築です。ただし方法が違います。
ロンシャンでは、分厚い壁の内側に光を導き入れる。外の風景は見えず、光だけが壁の厚みを通って届きます。閉じた内部に、加工された光が落ちてくる。
水の教会は逆です。壁を開いて、外の風景をそのまま入れる。加工しない。
片方は自然を遮断して光だけを取り出し、もう片方は自然を全部入れる。断面図を並べると、この違いが明確になります。
光の教会と対になっている
水の教会の翌年、安藤は大阪に光の教会(1989年)を完成させます。
こちらは正反対の構成です。閉じたコンクリートの箱で、開口は正面の壁に切り抜かれた十字形のスリットだけ。ガラスも入っていません。暗い室内に、光の十字架だけが浮かびます。
水を入れるか、光だけを入れるか。同じ設計者が、2年のあいだに正反対の解答を出したことになります。この2棟を並べて見ると、安藤が何を問題にしていたかが見えてきます。
平面図と断面図で見る
水の教会は、写真では「池と十字架の美しい風景」に見えます。
平面図を開くと、丘の上の箱、階段、礼拝堂という3つの部分がどう配置され、どこで方向が変えられているかが読めます。断面図では、丘から礼拝堂へ降りる高低差と、池の水面が座った目線とほぼ同じ高さにあることがわかる。
「感動的な風景」が、寸法と順路の設計から出てきたものであることは、図面でしか確認できません。
ロンシャンの側の断面を確かめたい方は、下記の手描き構想図をご覧ください。
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