CCTV本社ビル|コールハースが輪にした超高層

CCTV本社ビルの外観

CCTV本社ビルは、中国中央電視台の本部として北京に建てられた超高層ビルです。設計はレム・コールハース率いるOMA。2000年代に建設され、2012年に完成しました。

2本の傾いた塔を空中で直角に連結した「輪」のかたちは、完成前から世界の議論を呼び、いまも賛否が割れ続けています。

基本データ
名称中国中央電視台(CCTV)本社ビル
所在地中国・北京、中心業務地区(CBD)
設計OMA(レム・コールハース、オーレ・シェーレン)、華東建築設計研究院
構造設計アラップ
建設2004年着工、2012年完成
規模高さ234メートル、地上48階・地下3階、延床面積約39万平方メートル
評価2013年、高層ビル・都市居住協議会(CTBUH)の世界最優秀高層ビル賞
見学放送局の本部のため内部は非公開。外観は周辺の道路から見られる

高さを競わないという選択

2000年代の北京は、オリンピックを控えた建設の熱に沸いていました。超高層の国際コンペでは、より高く、より目立つ塔が競われるのが常です。

OMAの提案は、その競争自体を降りるものでした。高さで勝負せず、かたちの論理で勝負する。塔を一本立てる代わりに、曲げてつなげて輪にする。

コールハースは著述家としても、摩天楼という形式を分析・批評してきた人です。CCTVはその批評を、批評対象そのものの規模で建てた建物だといえます。

空中で連結された2本の塔

2本の塔と空中の連結部で輪をつくる構成を示した解説ダイアグラム

構成はこうです。地上から2本の塔が、それぞれ内側に傾きながら立ち上がる。頂部で、L字形の巨大な棟が水平に張り出し、2本を空中で連結する。

足元も低層部でつながっているため、全体としてねじれた四角い輪が完成します。

張り出し部の下には支えがありません。数万トンの躯体が頭上に浮かぶ。この不安定さの感覚こそ、この建物がもっとも強く発するメッセージです。

斜めの網目が力を運ぶ

輪のかたちは、通常の柱と梁では支えられません。CCTVでは、外皮に斜め格子(ダイアグリッド)の鉄骨を張りめぐらせ、建物の表面全体で力を運びます。力が集中する場所は網目が細かく、余裕のある場所は粗い。

つまり外観の模様は装飾ではなく、応力の分布図がそのまま立面になったものです。構造を隠さないという近代の原則が、コンピュータ解析の時代にどう進化したかを示す実例です。

放送局を一つの輪に収める

輪のかたちには、機能上の意図もあります。放送局の仕事は、制作、報道、管理、送出と、部門が鎖のようにつながる連続の流れです。塔を2本に分ければ部門は分断されます。

輪にすれば、すべての部門がひとつの連続した動線の上に乗る。かたちの奇抜さは、組織の図式の翻訳でもあるわけです。

機能の各部を分けて橋でつなぐデッサウのバウハウス校舎の解法を、垂直都市の規模まで拡大したものと読むこともできます。

賛否が割れ続ける建物

CCTVは完成の前後から、激しい賛否にさらされてきました。北京市民からは形を揶揄する呼び名で呼ばれ、膨大な建設費や、国営放送の本部という性格への批判もあります。

中国政府が後年、過度に奇抜な建築を抑制する方針を打ち出した際にも、しばしば引き合いに出されました。

一方で、構造技術の到達点として、また超高層の形式を更新した作品として、専門家の評価は高いものがあります。都市のアイコンか、権力の見世物か。この論争自体が、建築が社会に対して持つ力の証明でもあります。

「大きなパンツ」という呼び名

独特の形から、北京の人々はこのビルを「大褲衩(大きなパンツ)」と呼んでからかいました。

海外の建築家が設計した奇抜な建物が、国を代表する放送局の本部になることへの違和感も、この呼び名には込められていたと考えられます。

一方で、呼び名が広まったこと自体が、この建物が街の人々に強く意識されている証拠でもあります。愛称とあだ名は紙一重です。

空中の張り出しを支える技術

頂部で2本の塔をつなぐ棟は、支えのないまま空中に大きく張り出しています。この部分を実現するために、構造設計を担ったアラップは、コンピューターによる解析を重ねました。

2本の塔は別々に立ち上げられ、最後に空中で連結されます。連結の作業は、気温による鉄骨の伸び縮みを考えて、気温の安定した早朝に行われたと伝えられています。

一見すると不安定な形を、確かな計算で成り立たせる。この建物は、構造技術の見本市のような存在でもあります。

隣の建物の火災

2009年2月、CCTV本社の隣に建設中だったテレビ文化センターで、大きな火災が起きました。旧正月を締めくくる元宵節の花火が原因とされ、消防士1人が亡くなっています。

焼けたのは本社ビルではなく、同じ敷地にOMAが設計したホテルなどの入る建物でした。

この火災は、巨大な開発に伴う管理の問題としても大きく報じられ、敷地全体の完成が遅れる一因になりました。

「奇抜な建築」をめぐる議論

2014年、中国の習近平国家主席は、奇抜な建築をこれ以上つくるべきではないという趣旨の発言をしたと報じられました。

その後、中国政府は、見た目の珍しさを競う大型建築を抑える方針を打ち出します。CCTV本社ビルは、その議論の中でしばしば例として挙げられました。

国の象徴としての建築を、誰がどのような基準で選ぶのか。建築と政治の関係を考えるうえでも、この建物は重要な事例になっています。

レム・コールハースとオーレ・シェーレン

レム・コールハースは、オランダ出身の建築家です。若いころはジャーナリストや映画の脚本の仕事をしていたことで知られ、1975年に設計事務所OMAを共同で設立しました。

代表作には、アメリカのシアトル中央図書館(2004年)や、ポルトガルの音楽ホール「カサ・ダ・ムジカ」(2005年)などがあります。

CCTV本社ビルの設計を担当したパートナーのオーレ・シェーレンは、のちに独立し、アジアを中心に高層建築を手がけています。

見る角度で形が変わる

CCTV本社ビルは、北京の中心業務地区に建ち、周りを高層ビルに囲まれています。

この建物は、見る角度によって形がまったく違って見えるのが特徴です。ある方向からは細い一本の塔に、別の方向からは大きな門のように見えます。

周りの道路を少し歩きながら眺めると、傾いた2本の塔と空中の張り出しの関係が、立体としてつかめてきます。

世界最優秀の高層ビル

賛否の一方で、専門家の評価は高いものがありました。2013年には、高層ビルの研究団体CTBUHから、その年の世界最優秀高層ビルに選ばれています。

高さを競うのではなく、高層ビルという形式そのものを問い直した点が評価されました。

設計者のコールハースは2000年にプリツカー賞を受賞しています。著書『錯乱のニューヨーク』で摩天楼の歴史を読み解いた建築家が、自ら巨大な高層ビルに取り組んだ例としても注目されました。

摩天楼批評の系譜のなかで

超高層という形式を疑う試みには、系譜があります。コルビュジエは1920年代、塔を林立させるのではなく広い間隔と緑で都市を組み直すことを提案しました(300万人の現代都市)。

コールハースは、その近代都市計画も含めて検証の対象にし、密集と混沌にこそ都市の生命があると論じてきた人です。

高くすることを疑ったコルビュジエと、高さの意味を疑ったコールハース。ユルバニスムとあわせて読むと、百年にわたる摩天楼論争の現在地としてCCTVが見えてきます。

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