丹下健三の名言と出典|「美しきもののみ機能的である」の意味

丹下健三の名言と出典をたどる

丹下健三(1913-2005)は、設計と同じくらい執筆に力を注いだ建築家でした。論考が多く、言葉の出所も比較的たどりやすい。ここでは5つの言葉を取り上げ、コルビュジエとの距離という補助線で読み解きます。

コルビュジエの図面を雑誌で見た日

丹下健三が建築を志した契機は、本人がくり返し語っています。旧制高校の時代に、雑誌に掲載されたル・コルビュジエのソビエト宮殿案の図面を見たことでした。 その後、東京帝国大学で建築を学び、卒業後は前川國男の事務所に入ります。前川はコルビュジエのパリのアトリエで学んだ直弟子でした。

つまり丹下は、コルビュジエの孫弟子にあたります。この系譜が、彼の言葉と作品の両方を貫いています。

1. 「美しきもののみ機能的である」

吊り屋根構造の力の流れを示した解説ダイアグラム

出典:丹下が論考でくり返し用いた定式です。
意味と解説:
ルイス・サリヴァンの「形態は機能に従う」を、正面から裏返した一句です。機能から美が生まれるのではない。美を突き詰めた結果として、機能が実現される。
ここには、当時の日本で有力だった二つの立場への反論が含まれます。一つは、実用品にこそ美が宿るとする考え方。もう一つは、機能を満たせば形は自ずと決まるとする機能主義。丹下はどちらも退けました。
国立代々木競技場(1964年)の吊り屋根は、その実践です。構造的に必然の形ではなく、まず形が構想され、それを成立させるために坪井善勝らの構造設計が動員されました。

2. 「建築には、人の心を動かすなにかがなければならない」

出典:論考や対談でくり返された趣旨の言葉です。
意味と解説:
コルビュジエは「建築は感動させることであり、それは心の働きである」と書きました。丹下のこの言葉は、その系譜に連なります。
孫弟子という関係を踏まえると、単なる偶然の一致ではないことが見えてきます。ル・コルビュジエの名言10選とその真意を読み解く の該当箇所と読み比べてみてください。

3. 「伝統は創造の触媒である」

出典:1950年代の「伝統論争」のなかで展開された主張です。
意味と解説:
触媒という語の選択が要点です。触媒は反応を促しますが、それ自体は生成物に含まれません。伝統は創造のきっかけであって、形として引き継ぐものではないという立場です。
香川県庁舎(1958年)では、鉄筋コンクリートの梁を木造の組物のように見せています。木造の形を写したのではなく、木造の構成原理をコンクリートで再現した。触媒という比喩がそのまま形になっています。香川県庁舎 をご覧ください。

4. 「都市は、成長する有機体として考えられねばならない」

出典:「東京計画1960」を中心とする都市論で展開された趣旨です。
意味と解説:
東京湾上に軸状の都市を伸ばすこの計画は、完成形を描かず成長の方向だけを決めるという発想でした。コルビュジエの「輝く都市」が完結した図式を提示したのとは、ここが違います。
この考え方は、菊竹清訓や黒川紀章らのメタボリズム運動へつながっていきました。

5. 「技術は、人間の意志に奉仕するものでなければならない」

出典:論考でくり返された趣旨の主張です。
意味と解説:
技術決定論への反論です。使える技術が形を決めるのではなく、目指す形が技術を要求する。第1項の「美しきもののみ機能的である」と同じ構造の主張です。
広島平和記念資料館(1955年)でピロティを採用した判断も、この延長で読めます。構造上の必要ではなく、地面を通り抜けさせて慰霊碑と原爆ドームを一直線に結ぶために、建物を持ち上げました。

文章を書く建築家という系譜

丹下健三は、日本の建築家のなかでも際立って多くの論考を残しました。弟子筋にあたる磯崎新もまた「知の巨人」と呼ばれる書き手になります。

この系譜の源流にも、コルビュジエがいます。彼は『建築をめざして』をはじめ多数の著作を刊行し、雑誌『エスプリ・ヌーヴォー』を主宰しました。設計と執筆を一体の活動とみなす態度が、パリから東京へ受け継がれています。

孫弟子としての丹下健三

コルビュジエの日本人の弟子は、前川國男・坂倉準三・吉阪隆正の三人です。丹下はそのうち前川の事務所で実務を学びました。

系譜としては傍系ですが、影響の大きさでは劣りません。1955年に来日したコルビュジエが上野を視察し、国立西洋美術館の基本設計を送ったとき、実施設計を担当したのは前川・坂倉・吉阪の三人でした。丹下はその輪の外にいながら、戦後日本の建築を主導していきます。コルビュジエの日本人の弟子たちコルビュジエと丹下健三 をあわせてご覧ください。

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