ル・コルビュジエというと、白い壁を思い浮かべる方が多いはずです。ところが彼は、建築専用の色彩体系をつくった人でもあります。「建築のポリクロミー」と名づけられたその体系は、色を装飾ではなく空間を操作する手段として扱いました。
白い建築家という誤解
サヴォア邸の外観は白です。しかし内部に入ると、壁面は白一色ではありません。青、赤茶、黄土色、灰色。部屋ごとに色が塗り分けられています。
初期の住宅作品でも同様です。ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸の内部には、複数の色が計画的に配置されています。白い建築という印象は、外観の写真によって作られたものという側面があります。
ポリクロミーという語が指すもの
ポリクロミー(polychromie)は「多色性」を意味するフランス語です。建築史では、古代ギリシャ神殿がもともと彩色されていたという議論の文脈で使われてきました。
コルビュジエはこの語を借り、「建築のポリクロミー」という自分の体系の名前にしました。単に色を使うという意味ではなく、色の選択と組み合わせに規則を与えるという含みがあります。
1931年と1959年の二つの色見本
この体系は、二度にわたって具体的な色見本として発表されました。1931年に発表された最初の版と、1959年に追加された版です。
特徴は、色を単独で並べたのではなく、組み合わせて使える束としてまとめた点にあります。どの色とどの色を隣に置いてよいかが、あらかじめ設計されている。設計者が色彩感覚に頼らずに済むようにするための仕組みです。
寸法についてモデュロールを作ったのと、同じ発想です。属人的な判断を体系に置き換える。コルビュジエの仕事に一貫する方法がここにも現れています。
色は空間を動かす道具だった
コルビュジエにとって色の役割は明確でした。壁を前に出したり、奥に引かせたりすることです。
暗い色を塗った壁は後退して見え、明るい暖色の壁は迫って見えます。同じ寸法の部屋でも、色の配置を変えれば広さの感じ方が変わる。彼はこれを、物理的に壁を動かさずに空間を操作する手段として使いました。
だから彼の色は、装飾ではありません。平面図では表せない設計行為です。この点を押さえると、白い外観と多色の内部が矛盾しないことが分かります。
ユニテ・ダビタシオンのバルコニー
この体系がもっとも大規模に使われたのが、マルセイユのユニテ・ダビタシオン(1952年)です。
外観は打放しコンクリートですが、バルコニーの側板に赤、黄、青、緑が塗り分けられています。337戸が積み重なる巨大な塊に対して、色が住戸ごとの単位を可視化する役割を果たしました。
灰色の量塊のままなら、集合住宅は匿名的な壁になります。色を入れることで、そこに個々の住まいがあることが外から読み取れる。ユニテ・ダビタシオン をご覧ください。
壁紙という形で配られた
興味深いのは、この色彩体系が建築家向けの理論書ではなく、壁紙の見本帳として世に出たことです。実際に塗料や壁紙として入手できる形で提供されました。
理論を語るだけでなく、使える製品として流通させる。雑誌『レスプリ・ヌーヴォー』を自分で作ったのと同じ発想です。エスプリ・ヌーヴォー もあわせてご覧ください。
現在も、この色彩体系は塗料メーカーによって再現・販売されています。1931年に定められた色が、今も使えるということです。
色彩理論との関係
コルビュジエの色彩観については、当サイトの コルビュジエの色彩理論 でも扱っています。そちらが色の選び方と思想を扱うのに対し、この記事は体系としてのポリクロミーに絞りました。
なお、色と絵画の関係については、彼がピュリスムの画家として出発したことが背景にあります。生涯にわたり午前中は絵を描き、午後に設計をするという生活を続けました。色は、画家としての彼が建築へ持ち込んだものです。

