ル・コルビュジエとAI建築:100年前の未来予言はどこまで当たったか?

ル・コルビュジエとAI建築:100年前の未来予言はどこまで当たったか?

スマートシティの原点「輝く都市」

現在、GoogleのSidewalk LabsやトヨタのWoven Cityなど、世界中でAIやIoTを駆使した「スマートシティ」の開発競争が進んでいます。しかし、都市をゼロから効率的に計画し、機能的にゾーニング(区分け)するというコンセプトの原点は、実は100年近く前の1930年代にル・コルビュジエが提唱した「輝く都市(La Ville Radieuse)」にまで遡ることができます。

当時のパリなどのヨーロッパの都市は、産業革命後の人口爆発により、不衛生で混沌としていました。コルビジェはこれを「病める都市」と呼び、外科手術のように都市を再構築することを提案しました。彼は合理的で機能的に管理された都市計画こそが、人々を貧困や病気から救うと信じていたのです。都市を一つの巨大な「居住機械(マシン)」として捉え、データと論理に基づいて全体最適化を追求するその姿勢は、ビッグデータとAIで都市インフラを最適化しようとする現代のスマートシティ思想と、驚くほど共通しています。彼はアナログの時代に、すでに「都市のOS」を設計しようとしていたのです。

交通と歩行者の分離(モビリティ革命)

「輝く都市」の計画において、コルビジェは「人間と自動車を同じレベルで走らせてはいけない」と強く主張しました。彼は、高速道路、一般道、そして歩行者用通路を地面から切り離して立体的に交差させる複層的な交通システムを提案しました。当時の人々にとって、これはSF映画のような夢物語に過ぎませんでした。

しかし現代を見てください。都心のペデストリアンデッキ、地下鉄網、高速道路の高架化など、都市の立体化は当たり前のものとなりました。さらに、現在開発が進むスマートシティでは、地下を物流ロボット専用の通路にし、地上を歩行者とパーソナルモビリティ(自動運転ポッド)が共存する空間にする構想が標準となっています。AI制御による自動運転車が普及し、信号機のない交差点でスムーズに車が行き交う未来。それはまさに、コルビジェがスケッチブックに描いた、渋滞のない「スピードの都市」の現代版と言えるでしょう。

高層化による緑地の最大化

「都市は垂直に伸びるべきだ」。これがコルビジェによる都市問題へのもう一つの回答でした。彼は、低層の建物が密集する過密都市を批判し、超高層ビルを林立させることで人口を空中に収容し、それによって空いた地面(オープンスペース)を広大な公園や森にすることを提案しました。「高層化=緑地化」。建ぺい率を下げ、容積率を上げるこの戦略は、日照と新鮮な空気を全ての人に届けるためのものでした。

このアイデアは、現代の「コンパクトシティ」や「エコシティ」の基本戦略として完全に定着しています。東京都心の再開発でも、タワーマンションを建てて足元に公開空地(公園)を作る手法が一般的です。もしコルビジェが最新のAIシミュレーションを使ったとしても、人口過密な都市において自然との接点を確保するための「最適解」として、同じ結論に達した可能性が高いでしょう。彼の直感的な論理の正しさが、100年後の環境工学によって証明されつつあるのです。

データの管理か、人間の自由か

一方で、コルビジェの都市計画には常に批判もつきまといました。それは「あまりにも管理されすぎている」「画一的で人間味がない」という点です。彼の計画図には、同じ形の超高層ビルが幾何学的に整然と並んでいますが、そこには路地裏の雑然とした魅力や、予期せぬ出会いといった「都市のノイズ」が排除されています。

これは、現代のスマートシティが直面している課題、「監視社会化(プライバシー問題)」や「管理社会への懸念」と深く重なります。AIが都市の全データを収集し、全てを効率化・最適化しようとすればするほど、そこから外れるノイズや予測不可能な人間の振る舞い(カオス)は「エラー」として排除されてしまう危険性があります。ブラジリアなど、コルビジェの影響を受けた計画都市がしばしば「住みにくい」と批判されるのは、この「人間の複雑さ」や「文化の蓄積」を軽視し、合理性だけで都市をつくろうとした結果かもしれません。

AIはコルビジェの夢見たユートピアを実現するか

AIは計算能力において人間を遥かに凌駕します。もしAIが都市の全データをリアルタイムで処理し、エネルギー効率、交通流、物流、そして防犯までを完璧に制御できたなら、コルビジェが夢見た「混雑も汚染も騒音もない、太陽と緑に満ちた都市(ユートピア)」がついに技術的に実現可能になるかもしれません。

しかし、そこに私たちが本当に住みたいと思える「愛着」や「文化」が育つかどうかは全く別の問題です。都市の主役はあくまで「生身の人間」です。100年前のコルビジェの予言は、都市機能の解決策としては正解を示していましたが、同時に「合理性だけでつくられた都市の危うさ」も今の私たちに警告しています。これからのAI建築・都市計画に必要なのは、効率性を追求するAIの冷徹な知性と、人間の不合理な感情や文化を愛するコルビジェのような情熱的な「詩心」の融合なのかもしれません。